はじめに
子どもの発達には個人差がありますが、その中でも特に支援が必要な発達障害を持つ子どもたちがいます。
発達障害は、言語の遅れ、社交性の欠如、注意力の散漫など多岐にわたる特徴があり、時にはその潜在能力を見落としかねないため、早期の診断と支援が重要です。この文脈で、田中ビネー知能検査は、子どもの発達段階を評価し、必要な支援を提案するための有力なツールとして用いられます。
本記事では、具体的な事例を交えながら、この検査の有効性とその後の支援策について考察します。
発達障害とは
発達障害は、脳の発達が典型的なパターンと異なることにより、言語、社会的相互作用、運動技能、学習能力など複数の領域で顕著な発達の遅れが見られる状態です。
これには以下のような特徴が含まれます。
日本の文化と言語に適応させた改良点の具体例
田中ビネー知能検査における改良点には、以下のようなものがあります。
自閉症スペクトラム障害(ASD):社会的コミュニケーションと相互作用の困難、限定的な興味や反復的な行動が特徴。
注意欠陥・多動性障害(ADHD):注意が散漫、衝動性が高い、過活動が見られる。
学習障害(LD):読む、書く、数を扱う能力が年齢や知能に比べて著しく低い。
発達性協調運動障害(DCD):運動計画や実行が困難で、学習や日常生活に影響が出る。
これらの障害は、しばしば重複して発生することがあり、一つの障害が他の障害の兆候を覆い隠すこともあります(例:ADHDの活動性がASDの社交的困難を覆い隠す場合)。
発達障害の診断は、医師、心理学者、特殊教育専門家など、多職種の専門家による評価が必要です。
検査を受けるべき兆候
発達障害の早期発見には親や保護者の観察が非常に重要です。
以下のような兆候が見られる場合は、専門的な評価を受けることをお勧めします。
1. 言語の遅れ
- 言葉の発達が同年齢の子どもたちに比べて著しく遅い。
- 簡単な指示が理解できない、または言葉を使っての要求が少ない。
2. 社交性の問題
- 目を見てのコミュニケーションが少ない。表情が乏しい。
- 他の子どもたちと異なり、一人で遊ぶことを好む、共感の示し方が通常と異なる。
3. 注意力の散漫
- 一つの活動に長く集中できず、すぐに注意が他へ移る。
- 日常的なルーティンや作業において、頻繁に物を失くすまたは忘れる。
4. 反復的な行動や固執
- 同じ動作や言葉を何度も繰り返す。
- 特定のルーティンや順序を崩すと異常に動揺する。
5. 運動技能の遅れ
- 歩行、走行、ジャンプなど基本的な運動技能の習得が遅れている。
- 細かい手の動き(ペンを持つ、ボタンをかける等)に苦労する。
これらの兆候は、発達障害の可能性を示しており、田中ビネー知能検査を含む評価を通じて子どもの発達状況を具体的に理解し、適切な支援へと繋げることができます。
事例1:A君(4歳)
年中から幼稚園に入園したA君は、集団遊びから大きく外れることはないものの、自由遊び場面で園庭のあちらこちらを走り回り、友だちと関わる様子がみられない状況でした。
検査の様子:
検査室に入るよう促すと、返事はないものの、拒否もなくスムーズに入室。検査中は検査者をぼんやりと見つめる感じであり、自分から話題を投げかけ話すことはなかったが、言われたことに対しては一生懸命に取り組もうとする姿勢が見受けられました。
検査結果:
全体の結果は、年齢よりも約1歳3か月の遅れが見られました。検査項目の中では、言葉の理解や表現を求める問題が難しかった。表現する問題では、2語文程度で答えることが多かったです。一方、目で見て判断する問題はよくできていました。
支援:
保護者との面談で、A君は体を動かすことが好きだとの情報を得ることができました。園でもあちらこちらを走り回る様子が報告されています。家庭や園で、体を動かす遊びの中に、歌やセリフを取り入れる提案を行いました。言語表現の苦手なA君には、話すことのお手本として、おやつの時間などを使って、保護者が今日の自分の様子をA君に話して聞かせることを心がけることをお願いしました。園では、座る席を先生の近くにし、できるだけA君の得意な、実物や写真など視覚的なものを利用してA君に説明していくことをアドバイスしました。
事例2:Bちゃん(3歳)
3年保育で入園。元々人見知りがちなBちゃんであったが、入園後3カ月を過ぎても園でまったくと言っていいほどおしゃべりをしていない状態でした。やりとりはうなづく程度で表情がほとんど変わらない。朝の支度やお絵かきや工作といった制作活動などは誰よりもきちんとできている。自由場面では静かに絵本を眺めたりお絵かきをしている。
検査の様子:
母親と離れて検査室に入ることを知ると、表情が険しくなりました。母親には気配の感じるすぐ隣の部屋にいてもらい、Bちゃんにそのことを直接伝え、「クイズみたいなことするよ。」と検査についても説明すると少し安心し検査室に入室しました。
検査結果:
全体の結果は年齢を上回る数値であった。しかし、検査の取り組みの様子やできたことできなかったことに特徴がみられました。質問に対しての受け取りや答えに厳密さがみられ、「これは何ですか?」という質問を何度か繰り返す問題では、質問の省略に対応できなかった。見本を用いて行う課題では、見本に忠実にやらないといけないという思いが強く、見本とぴったりと少しも違わないように完成させようとする様子がみられました。また、答えに確信が持てないと、途中でやめてしまいその後もやろうとはしなかった。
支援:
家庭では、母親自ら、失敗したりうまくいかなかったエピソードをBちゃんに伝え、「今度また気をつければいいや」といった修復方法の手本を見せることが有効であることを説明しました。園では、無理やりお話しなさいと強要するのではなく、困ったときのSOSサインをBちゃんと決めておき、先生に伝えるようにすることで徐々にコミュニケーションをとっていくこと。音遊びや鳴き声遊びなど、言葉を発することに抵抗のない活動から声を出していくことを提案しました。
まとめ
田中ビネー知能検査は、発達障害のある子どもたちの具体的な課題と能力を明らかにし、それに基づいた支援を計画するための有効な手段です。この検査を通じて、子どもたちが社会に適応し、その潜在能力を最大限に発揮できるような支援を提供することが可能となります。発達障害の兆候を早期に捉え、適切な評価と支援が行われることが、子どもたちの成長と発展には不可欠です。
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