1. 発達障害とは
発達障害は、脳の成長過程における神経発達の遅れや特異性に起因する一連の症状を指します。
これには、社会的な交流・学習能力・注意の持続・運動協調といった多面的な能力に影響を及ぼすものが含まれます。
具体的には、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)、発達協調運動障害(DCD)などが存在します。
発達障害は一般に、「発達が典型的な範囲から著しく逸脱している状態」と定義されます。
しかし、これは決して学習能力や知的潜能の欠如を意味するものではなく、適切な支援や環境の調整を行うことで、子どもたちは生まれ持った能力や可能性を十分に発揮することも分かっています。
記事の目的
この記事の目的は、発達障害を具体的に理解し日常生活や学業にどのような影響があるかを説明することです。
加えて発達障害の診断プロセスと周囲のサポート(保育の専門家、教師、ご家族)はどのようなものがあるかもご説明します。
この記事を通じて、発達障害の基本的な知識を身につけ、診断と支援を一緒に考えていければと願っています。
2. 発達障害の種類と特徴
発達障害には様々な種類があり、それぞれが子どもの学びや成長、社会性に影響を与えます。
これらの障害(特性)を理解し、適切な対応を検討することは、子どもたちの発達を支援する上でとても重要なことです。
主な発達障害の種類とその特徴、日常生活への影響について詳しく解説します。
<注意欠如・多動性障害(ADHD)>
症状の概要
ADHDの子どもたちは、以下のような特徴が見られます。
典型的な行動パターンと日常生活での影響
- 学業: 授業に集中するのが困難で、指示に従うことができないことも多い。
- 社会性: 衝動的な行動や言動が原因で友達とのトラブルを引き起こすことがある。
- 家庭生活: 気が逸れてしまい日常のルーティンに従うことが難しい。
<自閉症スペクトラム障害(ASD)>
症状の概要
ASDの子どもたちは、以下のような特徴が見られます。
社会的相互作用とコミュニケーションの挑戦
- 友達関係: 友達を作ることが苦手なことが多いですが、特定の興味対象が同じ場合は共通の話題となり交友関係を築いていく事がある。
- 感情表現: 感情を適切に表現することができず、誤解を招くこともある。
- 教室内での挑戦: 集団での活動や新しいルーティンに適応するのが難しい。
<学習障害(LD)>
症状の概要
LDを持つ子どもたちは、以下のような困難を持ちます。
学習における具体的な困難
- ディスレクシア: 読み書きが特に困難、文字を捉える事が難しく音読が難しい。また、板書が苦手であったり鏡文字やカタカナの混ざった文章になる事がある。
- ディスカルキュリア: 数学学習障害。九九などに躓く。
- 注意の問題: 本人には分からない理由が分からないため、学習する際に集中を保つのが難しい。
<運動障害(DCD)>
症状の概要
DCDの子どもたちは、以下の症状が見られます。
日常生活や学業における具体的な影響
- スポーツや遊び: 運動が必要な活動でのパフォーマンスが低下。
- 学校の実技科目: 美術や体育など、手先の器用さが求められる科目で苦労するが、どちらかは上手くできることもある。
- 自己評価の低さ: 不器用さにより自信を失いがち。運動音痴などと認識が固定しがち。
この章では、各発達障害の特徴と日常生活への影響を詳しく解説しました。
一人ひとり苦手なことや困難なことはありますが、それに対して適切なサポートをすることでお子様の持つ能力を伸ばし、ポテンシャルを発揮することを手助けすることができます。発達障害であっても、脳の成長過程での凸凹は訓練により軽減されたり突然可能になる場合も十分にありますので参考にしてみてください。
3. 発達障害の診断プロセス
発達障害の診断は複雑で繊細な部分もあり、早期発見が子どもの発達にとって非常に重要です。
正確な診断や観察を通じて適切な支援と介入が行えるよう、保育の専門家、医療従事者、教育者、そして家族が連携することが必須です。
発達障害の診断プロセスを詳細に解説します。
■初期の兆候と親の観察
早期に見られる症状
発達障害の初期兆候は子どもによって異なりますが、通常以下のような特徴が見られます。
- 社会的相互作用の欠如・・・相手に合わせる事が苦手
- 言葉の発達遅延・・・定型発達の子どもより発語が遅いなど
- 繰り返し行動の示現・・・言葉や行動にもルーティンや強いこだわりが見られる
- 遊びが単調であること・・・ただ車を並べるだけ、くるくる回っているだけなど
- 目の合わせ方が困難である・・・視線が合いにくく、泳いでいるようである
これらの兆候は通常、幼児期の早い段階で見られるため、親や保育者は子どもの行動パターンを注意深く見守り共有していきましょう。
家庭での対応と初期段階での支援の重要性
親が早期の兆候を認識することで、適切な時期に専門的な評価を求めることが可能になります。
早い段階で専門家と連携することは、その後の子どもの発達にとって大きく有利になることがあります。
以下のような支援につなげることも可能になります。
- 早期教育プログラムへの参加
- 言語療法や行動療法の導入
- 家庭内での環境調整(子どもがより理解できるような工夫を取り入れる調整)
■専門家による評価と診断
診断に至るステップ
初診: 親が子どもの発達に関する懸念を発達相談が出来る機関や、小児科医などに相談。
詳細な評価: 子どもの発達の過程の確認、家族の特性や子どもの頃の類似点などのヒアリング、一定期間(三ヶ月程度)の子どもの行動の観察と記録。
様々なテストと観察: 認知発達テスト、言語評価、物理的健康評価などが含まれます。(発達検査:田中ビネー知能検査・WISC等)
関与する専門家
- 小児科医: 子どもの健康と発達の一次的な評価者。
- 臨床心理士: 認知と行動の詳細なテストを実施。
- 言語聴覚士: 言語とコミュニケーションの評価を提供。
- 作業療法士: 日常生活のスキルと運動能力の評価を行います。
※並行して幼稚園教諭・保育士・教師・発達アドバイザー等の協力
■診断後の支援
診断を受けた後の情報提供と親へのサポート
診断後、専門家は家族に対して詳細な情報提供を行い、どのような支援が可能かを説明します。
親へのサポートには、以下が含まれます。
- 情報リソースの提供
- サポートグループのご案内や加入までの補助
- 家庭での介入方法の指導
教育機関や地域社会における支援策
子どもをサポートするのは両親だけではありません。教育機関や地域社会で以下のようなサポートを受けることができます。
- 個別の教育計画(IEP): 学業成就をサポートするため、特定の目標が設定されます。
- 環境調整: 学習環境の変更が行われ、子どもが最大限に能力を発揮できるよう支援を調整します。現在は発達障害児へのサポートが可能な塾などもあります。
- 地域社会のリソース: 様々な治療プログラムやアクティビティでも成長をサポート
どのような支援が受けられるかは各自治体によっても様々ですので診断時に医師や専門家に確認してみましょう。
また、保育園や幼稚園の「加配」支援を受けるには、診断名が必要となり手続きを踏む必要があるので注意しましょう。
加配は病名の付いた発達障害児2人に対して1名の保育士の配置(2024年現在)となります。
4. 発達障害の支援策と向き合い方
発達障害のある子どもたちに対する支援策と向き合い方は多岐にわたります。
保育の専門家、医者(医療従事者)、教育者、そして家族が協力して、子どもたち一人ひとりのニーズに合わせた個別の支援計画を立てることが重要です。
以下に、効果的な支援と治療のアプローチを解説します。
①行動療法と環境整備
行動療法の基本
行動療法は、子どもが特定の行動を学び、社会的なスキルを向上させるためのトレーニングです。
この療法は以下のような方法で行われます。
- ポジティブな強化: 望ましい行動を示した時にポジティブなフィードバックを提供し、その行動を強化します。
- モデリング: 社会的スキルや適切な行動を示す大人や他の子どもたちを模倣させます。
- 行動変更: 望ましくない行動を減らすために、その行動に対する環境や反応を変えます。
環境整備
環境整備は、子どもが学びやすく、安心感を持てる空間を提供することに重点を置いています。
これには以下のような対策が含まれます。
- 整理整頓された空間: 物理的な環境を整理し、予測可能なレイアウトを用意します。
- 視覚的サポート: スケジュールやルールを視覚的に表示し、子どもが理解しやすくします。
- 適切な学習資源の提供: 学習スタイルに合わせた教材やツールを選定します。
子どもが「こだわり」を持っている場合は、そのこだわりに合わせて提供する空間や学習資源を工夫すると良いでしょう。
②教育的支援と介入
教育的支援
発達障害のある子どもたちに対する教育的支援は、彼らの学習プロセスを個別化し、具体的な学習目標に焦点を当てます。これには以下のような要素が必要です。
- 個別の教育計画(IEP): 学校での個別のニーズに基づいた教育計画を作成します。
- 特別な教育方法: 視覚的学習支援、触覚学習ツール、対話型の学習セッションを含む、多様な教育アプローチを採用します。
- 進行のモニタリング: 子どもの学習進行状況を定期的に評価し、必要に応じて計画を調整します。
介入プログラム
効果的な介入プログラムは、以下のように子どもたちの具体的な困難に対応します。
- 読み書きの支援: ディスレクシアを持つ子どもたちには、特化した読み書きプログラムを用意します。
- 計算スキルの強化: ディスカルキュリアのある子どもに対する特別な数学教育プログラムを実施します。
- 社会的スキルのトレーニング: ASDの子どもたちには、彼らの社会的相互作用を強化するプログラムを提供します。
③医療的介入
薬の使用
特定の発達障害(特にADHD)には、障害に合わせた薬の使用が推奨されることがあります。
これは、注意力を高め、衝動性を抑えるのに役立ちます。
薬の使用は医師・薬剤師との協力のもと行われます。どのような薬が子どもに適しているかは一度医師に確認をしてみると良いかもしれません。
投薬治療に対して、親の不安が募ることもありますが、本人の意図ではない衝動性や不注意によってケガをしたり、人間関係を悪化させてしまうケースなどでは
投薬により、過剰に分泌される脳内ホルモンを正常値へ近づける事で、本人の苦悩を緩和する事も多々あります。
医師とよく相談の上、偏った情報に振り回されず冷静に選択されると良いでしょう。
薬物治療には以下のような点が考慮されます。
- 正確な診断: 薬物治療は医師・薬剤師の診断のもとでのみ行われます。
- 継続的なモニタリング: 副作用や効果の程度を定期的にチェックします。
- 家族へのサポートと説明: 薬の使用目的、期待される効果、潜在的な副作用について家族に詳しく説明します。
その他の医療支援
- 定期的な健康診断: 障害の有無に関わらず、子どもの発達を支援する上で定期的な健康診断はとても重要です。
- 多職種間の協力: 医師、心理学者、作業療法士、発達アドバイザーなど、多くの専門家が連携して子どもの発達を支援します。
この章では、発達障害のある子どもたちに対する多面的な支援策と治療方法を概説しました。
これらの情報を活用して、各子どものニーズに合った最適な支援計画を立てることが重要です。
子どもたちがその可能性を最大限に発揮できるように、教育的、行動的、そして医療的な介入を適切に組み合わせる必要性を今一度確認しましょう。
5. 家族とコミュニティの支援の重要性
発達障害を持つ子どもたちにとって、家族とコミュニティの役割は計り知れないほど重要です。
家庭は子どもの初期発達における中心的な場であり、保護者として子どもを理解し支える方法を学ぶことが、子どもたちの成長には不可欠です。
また、地域社会や教育機関との連携を通じて家族はさまざまな支援や情報にアクセスできます。
この章では、家庭内で行える子どもへのサポートとコミュニティリソースの活用方法について考察します。
①家庭内でのサポート
家族は、発達障害のある子どもの最初の支援者です。
適切な対応と理解をもって接することで、子どもの自信と能力は大きく向上します。
- 情報の収集と学習
家族が発達障害について正確な情報を持つことは、適切な支援への第一歩です。診断後は専門家からの詳細な説明を受け、書籍やオンラインリソースを通じて知識を深めることが推奨されます。本ブログも情報収集の一助になれば幸いです!
- 日常生活の調整
家庭環境を整え、予測可能な日常ルーティンを確立することで、子どもは新しいスキルを学びやすくなります。また、兄弟姉妹をはじめとする家族全員が障害についての知識を持ち、日常生活のサポートをすることで、子どもは安心して日々をおくることができます。
- 感情的なサポート
家族全員で感情を共有し、お互いを支え合う環境を作ることが好ましいと言われています。時には不安になることもあるかと思います。必要に応じてカウンセリングや支援グループを利用することも有効です。
②コミュニティとの連携
地域コミュニティは、教育リソース・治療プログラム・レクリエーション活動など、多方面にわたるサポートを提供する重要な役割を担います。
- 教育と公的支援
地域の学校や早期介入プログラムは、発達障害のある子どもたちに特化した教育カリキュラムを提供します。これらのプログラムを利用することで、子どもの学習能力と社会性の向上が期待できます。
- 地域リソースの活用
地域に根ざしたリハビリテーションセンターやレジャー施設は、子どもたちの身体的および精神的健康を支えます。また、地域社会と連携し、発達障害の認識を深める啓発活動も重要です。
- ネットワーキングとサポート
同じ経験を持つ家族とのネットワークを構築し、経験や情報の共有をすることで子どものサポートがスムーズになるだけではなく、保護者自身の学びにつながることも。地域のイベントや活動に参加することで、社会的スキルを育み、家族間の絆も強化されます。
まとめ
発達障害を持つ子どもたちへの理解と支援は、単に医療や教育の枠を超えた社会全体の取り組みを要求します。家族、教育者、保育の専門家、そしてコミュニティが一丸となってサポートすることで、これらの子どもたちは自らの可能性を最大限に発揮し、将来的には社会の構成員として自立していくことができます。
この連携と支援のプロセスを通じて、発達障害のある子どもたちが直面する困難を乗り越え、彼らの才能が社会に花開く機会を提供することが私たちの義務であり、真の包摂が実現される第一歩です。
私たち一人ひとりがこの重要な役割を理解し、積極的に行動することが求められています。
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